昆虫シリーズ㉕ クワガタムシの仲間
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- 子どもたちの人気者・クワガタムシ
クワガタムシの仲間は、強く大きなハサミ形のアゴが特徴で、カブトムシと並んで人気が高い。日本では39種が生息。中でも最も人気が高いオオクワガタは、ブナ帯の落葉広葉樹林やクヌギ林に多く生息するが、残念ながら個体数は極めて少ない。秋田県内では、数匹程度しか確認されていない。秋田では、比較的採取が容易なミヤマクワガタやノコギリクワガタの人気が高い。ミヤマクワガタは、標高の高い山間部に生息する。身近な雑木林や緑地公園などで良くみかけるのは、ノコギリクワガタや、コクワガタ、ヒラタクワガタである。総じて森林に依存し、幼虫は樹木の朽ち木を食べて成長する。
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- 名前の由来・・・クワガタムシの大アゴが、武士が戦いで頭にかぶる兜の「鍬形(くわがた)」という飾りに似ていることから。
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- クワガタの体のつくり
- 大アゴ・・・戦う時の武器になる
- 触覚・・・触ってみたり、匂いを感じたりするところ
- 複眼・・・小さい目がたくさん集まって一つの大きな目になる
- 前胸・・・表側を前胸背板(ぜんきょうはいばん)という
- 上翅・・・2枚の上翅がある。上翅の下に2枚の後翅が折りたたんで隠れている。飛ぶときは、上翅を飛行機のハネのように広げる。次に後翅を開いてはばたかせて飛ぶ。
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- クワガタムシの一生
- 初夏~夏、産卵・・・♀はアゴを使って、コナラなどの朽ち木に穴をあけ、その中に1つずつ卵を産む。卵の数は合計20~30個ほど。
- 初令幼虫・・・体長約3~4mm。朽木を食べて成長し、3~4週間経つと最初の脱皮をする。
- 2令幼虫・・・幼虫の頭部は白いが、少しづつオレンジ色に変化。体長15mm。一月ほどで2度目の脱皮をする。ただし、8月後半から9月に産まれた場合、2令のまま越冬し、翌年の夏に3令になり、翌々年に羽化する。
- 3令幼虫・・・体長70~110mm。蛹室を作って、その中で3度目の脱皮をしてサナギになる。
- サナギ・・・カブトムシの蛹室は縦長だが、クワガタは横穴。
- 羽化・・・サナギになって3週間ほどすると、羽化する。体や各器官が固まるまで、蛹室で約一ヶ月ほど過ごした後、朽木の外に出てくる。ただし、夏の終わりから秋にかけて羽化した成虫は、1年は蛹室で過ごし、翌年の夏に活動を始める。
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ミヤマクワガタ |
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- 熱烈なファンが多いミヤマクワガタ・・・2年1越型
秋田では、単にクワガタと言えば本種を指すほど個体数は多い。北海道から九州まで広く分布する。頭部に盛り上がるようなコブ状の膨らみがあるのが特徴で、この王冠のような頭部が大きいものほど子どもたちに人気が高い。ペットショップでも、この頭部の大きさで値段が違うという。
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- 特徴・・・赤茶褐色で、身体全体に黄茶色の微毛がある。♂は、頭が大きく張り出し、王冠のようになる。大アゴは長く、内側へ緩やかに湾曲し、先端で二股になる。基部よりに大きな内歯があり、その前方に2~5本の小歯が点在する。
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- 生息地・・・低地にはみられず、標高の高い山地性。クヌギ、コナラ、ミズナラの林に多く、樹液に集まる。飛行性が高く、キャンプの際の灯火にも飛来する。
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- ♀は、切り株や立ち枯れの根部、半ば埋もれた倒木の地中部に産卵する。幼虫は地中の朽ち木で育つ。
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- バナナトラップにやってきたミヤマクワガタ、カブトムシ
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ノコギリクワガタ |
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- 採取が容易で最も身近なノコギリクワガタ・・・2年1越型
その名のとおり、大きく湾曲した大アゴにノコギリの歯のような突起がたくさんある。個体変異が多く、大きいものは7cmほどもあるが、小さいものは3cmにも満たない。夜行性だが、樹液が出ている木では昼間でも♂と♀が一緒にいることが多い。クワガタの中では特に口が長い。大きなアゴがあるから、口が長くないと樹液に届かないからである。
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- 特徴・・・体色は、赤褐色~黒赤褐色、やや光沢がある。♂の大アゴは、牛の角のように中心で左右上方に張り出し、湾曲する。中心よりやや前方に大きな第一内歯があり、内歯基部側に1本、前方に2~5個の小歯がある。
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- 生息地・・・低地~低山帯のクヌギ、コナラ、ヤナギなどの樹液に集まる。身近な緑地公園のコナラ、ミズナラなどの樹液にも集まる。
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- ノコギリクワガタは、震動を感じる細かい毛が生えていて、反射的に脚を縮めてしまう習性があることから、ポトリと地面に落ちやすい。だから、樹液の出そうな大きな木を狙って、蹴飛ばすと捕まえやすい。
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- 飛行性が高く、夜間の街灯に飛来する個体も少なくない。
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- ♀は、立ち枯れの根部や土中に埋もれた朽ち木に産卵し、幼虫は地中の朽ち木で育つ。サナギ室は土中に作る。幼虫期間は1~2年。
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- 成虫は、6月頃から発生を始め、7~8月に個体数を増やす。一度野外に出た個体は、秋までに死に、越冬しない。
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コクワガタ |
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- 採取が容易なコクワガタ・・・2年1越型。
全国的には、クワガタの仲間で最も個体数が多いと言われている。身近な都市部の公園から里山の雑木林でよく見掛ける普通種。クヌギ、コナラ、カシ、クリ、ヤナギなどの落葉広葉樹の樹液に集まる。夜行性で、昼は樹皮の隙間や枝の境目などで休んでいる。木を揺さぶると落ちてくることがある。♂と♀を一緒に飼育し、生態を観察するには最適な種といえる。
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- 特徴・・・黒色~赤黒褐色。♂の身体は、やや艶消し状。大アゴは、細長く直線的に伸び、中心よりやや先端寄りに小さな内歯がある。
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- 生息地・・・低地~低山帯のクヌギ、コナラの林に多く見られ、樹液に集まる。夜行性が強いが、昼でも活動している。
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- ♀は、倒木、落ち枝、切り株など至る所に産卵し、繁殖力が強い。幼虫は、どんな朽ち木でもよく育つ。
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- 成虫は、5月頃から発生を始め、7月になると個体数が増す。
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ヒラタクワガタ |
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- ヒラタクワガタ・・・採取容易、2年1越型。
ヒラタクワガタは、南の暖かい地方に住んでいて、関西や九州では普通に見られる。体が大きく、アゴが大きい個体は非常に強い。相手をケガさせてしまうほど激しく闘う。最近は、外国産のオオヒラタクワガタが野生化し、ヒラタクワガタとの交雑が問題になっている。
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- 特徴・・・黒色で、体は平べったく幅が広い。大アゴの内側基部寄りに発達した内歯がある。先は細かな小歯が連なる。
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- 水辺を好み、川縁のヤナギの木につく。個体数は多い。
- ♀は、土に半ば埋もれた朽ち木に産卵し、幼虫は地中の朽ち木で育つ。幼虫期間は約2年。
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- 5月になると発生が始まり、6月にピークを迎える。8月に入り、カブトムシやノコギリクワガタが多くなると、あまり姿を見せなくなる。
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- 外来種・オオヒラタクワガタ・・・クワガタブームで外国産のクワガタを飼育することが普通になっている。特に東南アジア産のオオヒラタクワガタは、大型で人気が高く、毎年大量に輸入されている。大きいもので100mm以上もあるが、在来種・ヒラタクワガタと同じ種で、容易に交雑することから、遺伝子汚染が指摘されている。
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- 在来種の脅威・・・♂のヒラタクワガタは、樹液の出る場所を占有する習性がある。圧倒的に強い外来種・オオヒラタクワガタが占有すれば、在来種・ヒラタクワガタは対抗できないことから、大きな脅威になると危惧されている。
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オオクワガタ |
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- 黒いダイヤと呼ばれた人気者・オオクワガタ・・・採取困難、2年1越型。
かつて7cmを超える大きな個体は、10万円を超える価格で取引され、「黒いダイヤ」と呼ばれるほど希少で人気が高かった。落葉広葉樹の木のウロに生息し、大木の枯れたところに卵を産む。臆病な性格で、木のウロから滅多に出てこない。活動するのは深夜で、気配を感じるとすぐにウロに隠れてしまう。野外では個体数が激減し、捕獲は極めて困難だが、飼育されている個体数は年々増えていると言われている。
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- 特徴・・・共に黒色。♂は、頭部が大きく、身体は幅広く厚みがある。大アゴは太く大きく、一本の内歯が内側へ向け突起する。
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- 体長・・・♂26~77mm、♀25~48mmと個体差が大きい。
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- 生息地・・・秋田ではミズナラやブナなど、ブナ帯の落葉広葉樹林に生息する。特に原生林や巨木が残されている場所を好む。そうした森は少なくなっているだけに、個体数は少ない。
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- キノコの一種・カワラタケなどによって白腐れした朽ち木に産卵する。幼虫期間は約2年間、朽ち木を食べて育つ。
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- サナギ室内で越冬した成虫は、5月頃から発生を始め、7月になると個体数を増やす。日本産のクワガタムシの中では、最も長寿で、成虫で3年以上生きることができる。
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- ヒメオオクワガタ♂ ・・・オオクワガタの四角い体と比べると、胸部がやや細い。体の大きさに対して脚が長いのも特徴。標高の高いブナ帯か、沢沿いのヤナギに多く生息する。珍しく日中に活動する。気温が上がる昼前に活動を始め、日が暮れると陰に隠れていることが多い。上の写真は、八幡平大深沢で撮影してた個体。
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Q&A |
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- 問①・・・クワガタムシになぜ大きなアゴがあるの?
- 多くのクワガタムシの♂には、大きな大アゴがあり、♀にも小さなアゴがある。♂は、大アゴを使ってケンカをし、エサ場や♀を奪い合う。
- ♀は、朽ち木を大アゴでかじって穴をあけ、潜って中に卵を産み付ける。
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- 問②・・・幼虫は何を食べているの?
カブトムシの幼虫は腐葉土を食べるが、クワガタムシは朽ち木を食べて育つ。幼虫の期間は、カブトムシが1年に対して2年と長い。
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- 問③・・・クワガタムシの大きさや大アゴの形が、個体によってそれぞれ違うのはなぜ?
幼虫の時、充分な朽ち木を食べ、栄養をたっぷりとると、大きな体と立派な大アゴになる。逆に栄養が少ないと、同じ種類のクワガタとは思えないほど体もアゴも小さい。それだけ個体変異が大きい。
(写真:ミヤマクワガタの大型個体の♂)
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- 参考:森のクラフト「樹液に群がるカブトムシ・クワガタ」(進藤武インストラクターの作品)
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参 考 文 献 |
- 「新ポケット版学研の図鑑 昆虫」(学研)
- 「身近な虫の鑑札図鑑 虫のおもしろ私生活」(ピッキオ、主婦と生活社)
- 「なぜ?の図鑑 昆虫」(学研)
- 「大自然のふしぎ 昆虫の生態図鑑」(学研)
- 「昆虫はすごい」(丸山宗利、光文社新書)
- 「日本のクワガタムシ・カブトムシ観察図鑑」(吉田/賢治、誠文堂新光社)
- 「クワガタムシハンドブック」(横川忠司、文一総合出版)
- 「身近な昆虫のふしぎ」(海野和男、サイエンス・アイ新書)
- 「昆虫の森」(丸山宗利、笠倉出版社)
- 「親子で学ぶクワガタ採集大作戦」(双葉社)
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