昆虫シリーズ⑨ 黄色っぽいアゲハの仲間
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- 最も普通に見られるナミアゲハ、キアゲハ(アゲハチョウ科)
アゲハチョウの仲間は、大型のものが多く、ハネを広げると70~120mmくらいある。ハネは休む時に開き、花の蜜を吸う時は半開きのものが多い。中でも黄色っぽいナミアゲハとキアゲハは、よく似ている。ナミアゲハは、町中や林の周辺など、日なたと日陰が混在する場所に棲む。これに対して、キアゲハは、開けた場所を好み、畑の周辺や川の土手、広場から高山の頂上まで最も広範囲に見られる。秋田では、ナミアゲハよりキアゲハが多く、アゲハチョウの仲間の中でも最も多く生息していると言われている。アゲハチョウの仲間には、チョウ道と呼ばれる通り道があり、定期的に巡回するので、待ち伏せしていれば簡単に採集できる。 (上左写真:ナミアゲハ、上右写真:キアゲハ)
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- 家紋・・・豪華で美しいチョウだけに、平氏の代表的な家紋に使われ、江戸時代には約300の幕臣の家紋にもなった。アゲハはサナギから脱皮すると、美しい大きなハネで空に羽ばたいていくことが、縁起が良いとして好まれたからである。
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- ナミアゲハ(アゲハ)とキアゲハの見分け方・・・前バネの付け根が黒い線状になっているのがナミアゲハで、一様に黒っぽいのがキアゲハ。またナミアゲハは黄色が薄い黄白色(夏型で稀にやや濃い黄色)、キアゲハは黄色っぽい。
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- 花の蜜を吸うためのストロー(口吻)は長く、普段はゼンマイのように丸く巻いている。
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- 花を見つけると、丸く巻いていたストロー(口吻)を伸ばし、根元から約1/3のところをくの字に曲げ、花の奥に刺し込んで蜜を吸う。
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- 花の奥にある蜜は、頭を突っ込んで吸う。その時体についた花粉を、他の花へ運ぶ送粉者の役割も担っている。
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- アゲハチョウは、赤やオレンジ、ピンク色の花が大好きで、蜜を吸う時は、好んで赤系の花を訪れる。つまり、アゲハチョウは、紫外線も見えるし、赤も見える。モンシロチョウより、見えている光の幅が広い。
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- アゲハチョウ・名前の由来(動画:集団で吸密するキアゲハ)・・・花にとまって蜜を吸う時、羽を「揚げ」、せわしなく羽ばたいているところから、「揚羽蝶(アゲハチョウ)」と名付けられた。また、飛ぶ様子がフワフワと気ままに舞いながら空にあがるように見えることからなどの説がある。
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ナミアゲハ(アゲハ) |
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- 名前の由来・・・アゲハチョウの仲間のうち、最も普通に見られるアゲハチョウの意味で「ナミアゲハ」、あるいは単に「アゲハ」と呼ばれている。
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- 成虫が見られる時期・・・4月~10月。春から10月頃まで何回も発生する。9月以降に幼虫が育つと、サナギで越冬する。
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- 食草(写真:サンショウと幼虫)・・・サンショウ、イヌザンショウ、カラスザンショウ、カラタチ、ハマセンダンなど各種栽培ミカン類など(ミカン科)
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- 都市部でも人家の庭木で発生・・・一般的にアゲハチョウの仲間では最も普通に見られると言われている。しかし本県では、キアゲハの方が最も普通に見られる。
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- かつては生け垣にカラタチを使う家があった。カラタチは鋭いトゲがあるので、泥棒除けにもなったからだ。しかし最近は、カラタチやミカン、サンショウを植える人が少なくなり、ナミアゲハも減少していると言われている。
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- 生息環境(写真:樹木見本園のアベリアとナミアゲハ)・・・森林・農地・公園・人家。平地から低山地の人家や農地などの栽培ミカン類がある場所や伐採地・林縁部で食草が生える場所。
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- 日中、明るい樹林の周囲のやや高所を飛翔し、ツツジ類やアザミ類、ヤブガラシなど各種の花を訪れる。
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- オスは吸水を行うが、それほど吸水性は強くない。オスは、チョウ道を形成する。
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- ナミアゲハはどこを飛ぶか
- 日が良く当たっている木の梢に沿って飛ぶ。両側に木があったとすれば、日が当たっている側に沿って飛ぶ。日陰になっている所は絶対に飛ばない。
- オスは、メスを探して飛び回る。メスがいる可能性がある所は、卵を産むカラタチやミカン、ユズなどミカン科の木のある所である。イネ科の草が生えている草原やキャベツ畑にメスが出てくる可能性はほとんどない。だから、オスは木の梢に沿って飛んでいなければ、メスを見つける可能性はないということになる。
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- アゲハの交尾・・・腹部の先でつながって交尾する。上がメス、下がオスで、交尾は1時間ほど続く。ほとんどのチョウの尻の先には、1対の光を感じる器官がある。この器官に光が当たらなくなると、筋肉が収縮する。交尾の際には、この器官に光が当たらなくなるので、つながりが強くなり、交尾の成功率が高まると言われている。
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- 産卵・・・交尾を終えたメスは、2日ほどたつと卵を産み始める。メスは、食草を見つけると、良い葉かどうか、前脚で叩いて確かめる。これをドラミングという。OKとなれば、お腹を曲げ、葉に卵を一つずつ丁寧に産み付けていく。
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- 卵の直径は1mmほど。薄い黄色でまん丸い形をしている。1匹のメスは、100個ほどの卵を産む。そのうち成虫になれるのは10個ほどしかない。
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- 背中に白い模様がはっきり出た3齢幼虫。3齢幼虫までは、黒っぽく、鳥の糞に擬態する。幼虫たちが休む葉には、落ちないように脚をひっかけるための糸が敷かれている。お腹がすくと、おいしい葉を探して動き回り、食べ終わると、糸のある葉に戻ることが多い。
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- 4齢幼虫になって1週間。幼虫が動かなくなる。やがて、背中の皮が割れて脱皮が始まる。皮を脱ぎ終わるまで約5分。緑色の5齢幼虫に変身する。
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- アゲハの幼虫の体
- 目玉模様・・・外敵の鳥などを驚かして撃退する。
- 本当の目・・・前下に小さな目が並んでいる。
- 気門・・・空気を出し入れする穴。
- 腹の足・・・歩く時に使う。
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- 蛇に似たポーズと臭い角を出して敵を撃退・・・チョウやガなどの幼虫は、常にトカゲや鳥などに狙われている。これらの捕食者たちが最も恐れるのは蛇。幼虫が頭をもたげて大きな目玉模様を強調し、蛇に似たポーズと外見で敵を威嚇し、身を守る。さらに驚くと、黄色い角を出し、その角から臭い匂いを出して撃退する。
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- サナギ・・・緑色と茶色のタイプがある。色は、幼虫がサナギになる場所で変わる。緑色になるのは、周りに葉の匂いがあること、サナギになる場所がツルツルしていることなどが影響する。匂いがなく、ザラザラした場所では茶色になることが多い。
- 冬越しするサナギを越冬蝋(えっとうろう)という。周りの皮が厚く、5度の気温で2週間以上過ごさないと、成虫になることができない。このサナギには、昼の長さを計る体内時計をもっている。越冬したサナギから小さい春型のチョウが羽化してくる。
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- 寒冷地では年に2回、暖地では年3~5回ほど発生する。
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キアゲハ |
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- 名前の由来・・・黄色いアゲハチョウの意味。もともと北国のチョウで、本県では平地から高山まで最も良く見られる。
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- 成虫が見られる時期(写真:ハマナスとキアゲハ)・・・4月~10月。寒冷地では年に1~2回、暖地では年3~4回ほど発生する。
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- 食草・・・セリ、ミツバ、エゾニュウ、シシウド、ニンジン、パセリなど(セリ科)
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- 生息環境(写真:農家の庭の花にやってきたキアゲハ)・・・平地から山地の明るい草原、都市部の公園や人家、丘陵地の農地から高山のお花畑などに見られる。
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- 日中、草原の上をやや敏速に飛翔し、ツツジ類やアザミ類、コオニユリ、ネムノキ、ムクゲ、アベリアなど様々な花を訪れる。(写真:ノアザミとキアゲハ)
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- オスは、山頂で占有行動をとるため、山頂部によく集まり、草の上や地面に静止する。森吉山山頂(1,454m)では、石の上でハネを広げて日光浴(上写真)をしていた。
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- 秋田駒ヶ岳横岳山頂(1,583m)で日光浴していたキアゲハ。
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- 秋田駒ヶ岳では、イワカガミやウゴアザミ(上写真)で吸蜜。
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- キアゲハの卵・・・丸くて黄色い卵は、1週間から10日ほどでキアゲハの幼虫が発生する。孵化した幼虫は、最初に卵の殻を食べる。4齢幼虫も脱皮する殻は全部食べる。
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- 幼虫・・・1~3齢まではグリーンが少なく全体的に黒っぽい。これは鳥の糞に擬態している。5齢になると鮮やかな緑色に黒い縞とオレンジ色の斑点をもつ目立つ色彩に変身する。外敵から身を守るために、驚くと、頭の付け根からオレンジ色の肉の角を出し、臭い匂いとのけぞらせるポーズで威嚇する。その匂いは、ミカンの皮を強くしたような匂いだが、天敵であるカエルや小鳥にはとても耐えられないほど臭いらしい。毒々しいほど目立つ色彩は、「食べても美味しくない」ことを相手に強く印象付ける「警告色」だと考えられている。
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- 臭い角で威嚇・・・アゲハと同じく、強い臭気をもつ角を出して外敵を威嚇する。
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- サナギになる前の幼虫は、何も食べずに、忙しく歩き回る。それは、サナギから羽化して成虫になった時にハネを広げることのできる広い空間と一番安全な場所を探しているのである。
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- 寒い地方に適応したキアゲハは、サナギの時、マイナス30℃の寒さでも死なないという。低温でも凍らない「不凍液」を体の中に持っているからである。
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- 夏にサナギになる場合は、幼虫の食べ物がたくさんあるので、夏に羽化して産卵する。2回目のサナギは、そのまま越冬し春に羽化して成虫になる。
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参 考 文 献 |
- 「フィールドガイド 日本のチョウ」(誠文堂新光社)
- 「フィールドガイド 身近な昆虫識別図鑑」(海野和男、誠文堂新光社)
- 「昆虫学ってなに?」(日高敏隆、青土社)
- 「大自然の不思議 昆虫の生態図鑑」(学研)
- 「昆虫 なぜ?の図鑑」(学研 )
- 「昆虫のすごい瞬間図鑑」(石井誠、誠文堂新光社)
- 「身近な昆虫のふしぎ」(海野和男、サイエンス・アイ新書)
- 「ぜんぶ わかる アゲハ」(新開孝、ポプラ社)
- 「蝶と私 羽後町の蝶を中心に」(福嶋信治)
- 「ファーブル先生の昆虫教室」(奥本大三郎、ポプラ社)
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