樹木シリーズ69 キハダ
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- 黄色い内皮は胃腸薬・キハダ(黄膚、ミカン科)
山地の沢沿いの湿った場所に生え、薬用植物として栽培されている。縦に裂ける樹皮はコルク質が厚く弾力があり、これを削ると鮮やかな黄色の内皮が現れる。内皮には苦味があって、健胃薬や外用薬として用いられる。葉をちぎると、ミカン科特有の香りがする。秋、ブドウのような果実が黒く熟し、野鳥が好んで食べる。葉は、美しく黄葉する。キハダ属は主として東アジア温帯のシベリアから台湾に分布し、日本には1種キハダのみが自生。北海道から九州まで広く分布している。
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- 名前の由来・・・樹皮の内皮は、鮮やかな黄色を呈していることから、「黄膚」と書く。「大和本草」(貝原益軒著)には、「その木の皮黄なる故キハダと名ずく、味苦き故虫を殺し腹痛止む」と書かれている。
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- 花・・・枝先に円錐花序をだし、黄緑色の小さな花を多数つけるが、あまり目立たない。花序の軸には、褐色の短毛が密生する。雌雄異株。
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- 雄花・・・花弁より長い雄しべが5個と退化した雌しべがある。
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- 虫媒花・・・ミツバチやクマバチなど多くの昆虫たちが訪れる。上の写真は、黄色い雄しべの花粉を体中につけているニホンミツバチ。
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- 樹皮・・・コルク層が発達し、縦に浅く裂ける。外側のゴツゴツした分厚いコルク質の皮を剥がすと、鮮やかな黄色い内皮が現れる。
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- 葉・・・小葉は、長楕円形で2~6対、対生する。葉先は細長く伸び、ミカン科特有の香りがする。
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- 果実・・・果実は球形で、はじめ緑色で10月頃黒く熟す。精油を多く含み、ミカン科特有の香りがする
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- 実を食べる野鳥・・・10月頃、黒く熟すと、まずヒヨドリやクロツグミ、アカハラが食べ、冬鳥のシロハラや渡り途中のマミチャジナイなどが食べ始めると、実は一気になくなるほどよく食べられる。
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- 採取時期・・・最も地上部の生育が盛んな「梅雨期」に樹皮を剥ぐ。根から水分を吸い、枝から葉部に多量に水が送られる時期は、コルクと内皮もはがれやすいからである。コルク層を取り除いた内皮は日干しにして乾燥させる。これを生薬で「黄柏(おうはく)」という。
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- 自家用の胃腸薬・・・キハダは、昔から山村の代表的な胃腸薬として常備された。樹皮のコルク質を取り除いた内樹皮はベルベリンを含み、苦味がある。だから、煎じたり、酒に漬けたりして飲む。強壮、健胃、殺菌、整腸薬として用いた。また、漢方薬としても優れ、高血圧、不眠症、婦人病、胃潰瘍などに効くと広く知られていた。
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- 「陀羅尼助(だらにすけ)」・・・奈良県の吉野や高野山などで製造される健胃整腸剤の「陀羅尼助(だらにすけ)」は、この黄檗が主成分になっている。なお名前は、長いお経である陀羅尼経を唱える時に、眠気を抑えるために、このすこぶる苦いものを口に含むことに由来する。
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- 染料・・・昔は、絹でも木綿でも媒染剤なしで黄色に染めることができる重要な黄色染料であった。キハダの染め物には防虫効果があるため、古代中国では公式文書の用紙に黄柏で染めた「黄紙」が用いられた。日本でも、長く保存する必要がある大事な経文や戸籍帳、帳簿などに使う紙を染めて使った。「正倉院文書」などの文献には、正倉院に残されている黄色い染紙の多くは「キハダで染められた」とある。
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- 材の利用・・・軽くて柔らかく、加工しやすく湿気にも強いことから、家具や江戸指物などによく用いられた。ただし、ケヤキやクワの代用材として扱われることが多かった。
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参 考 文 献 |
- 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
- 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
- 「里山の花木ハンドブック」(多田多恵子、NHK出版)
- 「図説 日本の樹木」(鈴木和夫・福田健二、朝倉書店)
- 「野鳥と木の実と庭づくり」(叶内拓哉、文一総合出版)
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