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樹木シリーズ114 ニシキギ

  • 紅葉が美しいニシキギ(錦木、ニシキギ科)

     北海道から九州の山野に普通に生え、秋の紅葉が美しいので庭木や生け垣としてよく植えられている。枝から垂れ下がる赤い実も美しい。花は黄緑色で余り目立たない。枝にコルク質の翼が発達するのが特徴で、その翼が発達しない品種がコマユミである。 昔、鹿角地方では、好きな娘の家の戸口に恋文の代わりに紅葉が美しい錦木を立てた。それを見た娘は、OKの場合はそれを家に入れ、NOの場合はそのまま放置するという風習があった。その風習から生まれた錦木塚伝説(鹿角市十和田錦木)は、多くの和歌に詠まれ、歌枕の地として全国的に有名である。 
  • 見分け方・・・ニシキギの変種・コマユミとよく似ているが、枝にコルク質の翼が発達したものがニシキギで、その翼がないものがコマユミ。 
  • 名前の由来・・・紅葉した美しい姿を「錦」に例えて、「錦木」と書く。 
  • 別名・・・枝に付いたコルク状の翼がカミソリの刃のように見えることから、、「剃刀の木(かみそりのき)」とも呼ばれている。他に「五色木(ごしきぎ)」「矢筈錦木(やはずにしきぎ)」とも言う。 
  • 花期・・・5~6月、高さ2~3m、大きいものは5mにもなる。
  • ・・・葉腋から葉より短い柄のある集散花序を出し、淡い黄緑色の花を数個開く。 
  • 花弁は4個、雌しべは1個、雄しべは4個。ガクは4裂する。 
  • ・・・倒卵形で先端は鋭く尖り、縁には細かい鋸歯がある。
  • 樹皮・・・灰褐色。枝にコルク質の板状の翼がつくのが特徴。幹に黒い筋のように見えるのは、太くなるにつれて翼は消えるが、その痕跡の跡である。
  • 紅葉・・・まさに燃えるような紅葉が美しい。 
  • 蒴果・・・10~11月、赤く熟すと皮が割れ、朱色の種が1個ずつぶら下がる。赤い種は、真っ赤に紅葉すると目立たないが、落葉すると良く目立つ。 
  • ニシキギの種子と野鳥・・・落葉すると、栄養価が高い真っ赤な仮種皮は良く目立つので、鳥を引き寄せる。鳥は、丸ごと呑み込んで種を運んでくれる。コゲラ、ウトリ、エナガなど。 
  • シラミ駆除・・・昔は、この実を煎じた汁をシラミの駆除として頭髪に塗った。だから福島県では「シラミトリ」、群馬県では「シラミノキ」、埼玉県では「シラミコロシ」と呼んだという。 
  • 判子の木・・・マユミとニシキギは、木目がなく柔らかい木なので、昔から判子を作るのに用いられた。子供たちの遊びとしてもこの木で判子を作った。 
  • 錦木塚伝説(鹿角市十和田錦木)・・・草木村の若者が、毛布(けふ)を織る娘に恋して、紅葉が美しい錦木をその女の門口に立て続けた。女は嬉しく思ったが、父に反対されてしまった。錦木が千束に達する直前、若者は落胆の余り死亡、その後を追うように娘も亡くなる悲恋物語。父親は娘の思いを知らなかったことを嘆き悲しみ、千束の錦木と一緒に一つの墓へ夫婦として葬ったのが錦木塚である。( 「東国名勝志」1762年刊行、国立国会図書館デジタルコレクション)
  • 「けふの里」と呼ばれた鹿角は、錦木塚伝説のロマンとともに、古くから歌枕の地として全国的に有名になっていた。錦木塚展示室には、たくさんの和歌が展示されている。
  • 一番最初に詠んだのは、平安中期の歌人・能因法師(988~1050)で、「錦木に立てながらこそ朽ちにけれ けふの細布胸あわじとや」と詠んでいる。これは錦木を立てたけれども、取り入れられずに朽ちている。けふの細布は幅が狭いから胸が合わないということで、恋が成就しないことをかけて詠んだものであろう。
  • 菅江真澄と錦木塚「けふのせば布」(1785年8月下旬)・・・神田(しんた)という村についた。川が増水していて深く、渡し舟も出ないので、ここに泊まった。(翌日)川の水が減っていたので、渡し舟がでた・・・古川という村について、錦木塚・・・はどこかと尋ねると、稲刈りをしている女が・・・鎌でさししめして、その方向を教えてくれた。
  • 真澄は、錦木塚の前にたたずみ、紅葉しかけた五本の木の枝を折って亡き霊に手向け、二種の和歌を詠んで紙に書きつけ錦木に結んでいる。
    錦木の昔をおもひ出て 面影に立つはしのもみじ葉」
  • その22年後の1807年に、再度「錦木」を訪れ、錦木塚の図絵を描いている。二つの図絵を比較すると、かなり上達しているのが分かる。和歌を好んだ真澄にとって、錦木塚はお気に入りの場所であったに違いない。
  • 草木村には、「錦木塚伝説に登場する若者が住んでいた」という場所に標柱が立っている。「伝説の里」と呼ばれている鹿角地域は、語るだけでなく、形として残している点が凄い。
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
  • 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
  • 「里山の花木ハンドブック」(多田多恵子、NHK出版)
  • 「講談社ネイチャー図鑑 樹木」(菱山忠三郎、講談社)
  • 「植物民俗」(長澤武、法政大学出版局)
  • 「野鳥と木の実と庭づくり」(叶内拓哉、文一総合出版)
  • 「拾って楽しむ 紅葉と落ち葉」(平野隆久ほか、山と渓谷社)
  • 錦木塚展示室(毛馬内盆踊り保存会)