昆虫シリーズ㉘ アシナガバチの仲間
|
 |
- アシナガバチは、スズメバチ科アシナガバチ亜科に属する狩りバチで、世界中に100種以上、日本にはセグロアシナガバチやキアシナガバチ、コアシナガバチ、フタモンアシナガバチ、ヤマトアシナガバチなど11種。植物の繊維で巣をつくり、女王と働きバチが生活する真社会性の狩りバチである。全ての種は特徴的な巣をつくる。巣材は、木の皮などを噛み砕いて唾液で練る、いわば紙をつくるような手法でつくる。攻撃性は、スズメバチほどではないが、誤って巣に触れたりすると集団で襲ってくるので要注意。
- INDEX キアシナガバチ、セグロアシナガバチ、ヤマトアシナガバチ、コアシナガバチ、フタモンアシナガバチ、ムモンホソアシナガバチ 、キボシアシナガバチ
|
アシナガバチの暮らし |
 |
- 巣は、越冬を終えた女王バチによって、春先につくられる。鋭いアゴで木材の繊維をかじりとる。繊維は、唾液と混ぜ合わされ、ドロドロのパルプ状になるまで噛み砕かれ、巣材にされる。
- 初め巣を吊るす柄の部分をつくった後、一つずつ部屋がつくられる。巣の形は種によって異なり、釣鐘型のものから反り返った形まである。単層で部屋が立体的に重なることはない。
|
 |
- 最初の部屋が半分ほどできあがると、女王は腹をさしこんで産卵する。女王は巣づくりを続け、1部屋に1個ずつ産卵していく。
|
 |
- 卵が孵化すると、女王は獲物を狩って肉団子にして幼虫に与えなければならず多忙となる。肉団子は小さいので、幼虫の食欲を満たすには、1日に何回も狩りをしなければならない。
|
 |
- 産卵から1ヶ月ほどで、幼虫は口から糸をはいて巣部屋に蓋をしてサナギになる。それから約3週間後、部屋の蓋を破って、働きバチが羽化する。働きバチは、巣づくりや獲物狩り、幼虫への給餌を行う。以降の女王は、産卵と卵の世話に専念する。こうして次々に働きバチが羽化し、巣は急速に拡張する。
- 夏の終わりになると、女王は新女王になる卵をいくつも産んだ後、死んでしまう。女王を失った巣では、働きバチが単為生殖によって未受精卵を産むことがある。この卵からオスが産まれる。
|
 |
- 夏の終わりになると、新女王とオスのハチが羽化する。新女王とオスバチは、巣の外で交尾する。やがてオスバチは死に、新女王はしばらく巣にとどまる。
- 晩秋になると越冬のため巣を離れる。新女王は、朽ち木の中や物陰でじっとして越冬する。木のウロなどでは、十数頭もの新女王がかたまって越冬することもある。
|
 |
|
キアシナガバチ |
 |
- アシナガバチと言えば、本種を指すほど分布密度が高く、様々な場所に営巣する。攻撃性が強く、発達期から成熟期にかけて巣に近づくと刺されることが多い。複数の女王によって巣が造られる多雌巣も比較的多く見られる。セグロアシナガバチに似ているが、背中(前伸腹節)には黄色の縦の筋が1対あることで見分けられる。和名は全体が黄色に見えることから。ヤマトアシナガバチとの相違点は、腹部第1節背面の黄色の横帯に黒い1本の線があること。
|
 |
- 女王24mm内外、働きバチ18~23mm、オス19~23mm
|
 |
- 繊維質の巣・・・家屋の軒下、石垣、樹木の枝など。巣は六角形の小部屋が並ぶ下向きの平たい釣り鐘型で、中心部の小部屋は長く、外側は短いのが特徴。巣の材料は、大アゴで木材などをかじり取り、繊維をほぐしながら特別な成分を含む唾液を口の中で混ぜ合わせ、それを固めて巣をつくる。これは和紙のつくり方とよく似ている。巣は軽くて丈夫で、しかもアメ風にも強いスグレモノ。
|
 |
- 攻撃性・・・巣を刺激すると数mの距離まで追い掛けて刺しに来る。
|
 |
セグロアシナガバチ |
 |
- キアシナガバチと並び国内のアシナガバチの仲間では最大種。体の斑紋は、黄色と茶褐色の部分がある。キアシナガバチに似ているが、その名のとおり、背中(前伸腹節)は全体が黒い。ガの幼虫などを捕食して幼虫の食べ物にするほか、ヤブガラシなどの花の蜜を吸うこともある。
|
 |
- 女王24mm内外、働きバチ16~22mm、オス17~23mm
|
 |
- 営巣場所・・・家屋の軒下、石垣、草木の茎や枝などに、ハスの花を下に向けたような巣をつくる。一つの巣には数十から百個体ほどが生活する。
|
 |
 |
- 攻撃性・・・巣を刺激すると数mの距離まで追い掛けて刺しに来る。
|
ヤマトアシナガバチ |
 |
- アシナガバチの中では最も温和な性質を有し、激しい振動等を加えない限り刺しに来ることはない。攻撃性の強いキアシナガバチに擬態している。東日本では生息密度が低く、希少種。キイロスズメバチに似ているが、腹部第1節背面の黄色の横帯に黒い1本の線がないことで見分けられる。
|
 |
- 女王18mm内外、働きバチ15~17mm、オス17mm内外
|
 |
|
 |
|
コアシナガバチ |
 |
- 日当たりの良い様々な場所所に営巣し、アシナガバチの中でも最も融通性に富んでいる。全体が赤褐色で、キボシアシナガバチに似るが、腹部第3,4節に黄色の斑紋がある。フタモンアシナガバチとともに、最も高い垂直分布を示す。
|
 |
- 女王16mm内外、働きバチ11~13mm、オス12~14mm
|
 |
- 営巣場所・・・家屋の軒先、壁、塀などの工作物、石垣、樹木の枝など融通性に富む。巣の形状は、巣柄を起点にして一方向に向かって伸長し、舟形のように湾曲する。
- 攻撃性・・・巣を刺激すると追い掛けて刺しに来る。
|
フタモンアシナガバチ |
 |
- その名のとおり、腹部第2節に丸い黄色の斑紋が二つある。前胸背板は黒い。女王18mm内外、働きバチ14~16mm、オス15~16mm。
|
 |
- 営巣場所・・・家屋の軒下、草木の枝、植物の枯れた茎や樹木の幼木など。巣は下向きのものと横向きのものがある。標高の高い山地では、ほとんどが横向きタイプで占められる。
- 攻撃性・・・巣を刺激すると数mの距離まで追い掛けて刺しに来る。
|
ムモンホソアシナガバチ |
 |
- 体は黄色と薄茶色の縞模様、細身で小型のアシナガバチ。低山地の里山的環境に生息する。一般的にアシナガバチは単独で越冬するが、このハチは、コナラなどの樹洞に集団で越冬する。その数は数十匹から数百匹の大集団になることもある。
|
 |
|
 |
 |
 |
- 林内および林縁の低木や草本の葉裏や枝,茎などに営巣する。最盛期の働きバチ数は最大で約100匹である。
|
 |
- キボシアシナガバチ(写真出典:urasimaru)
前胸背板は黒色か茶褐色で、黄色の縦筋はない。腹の各節には茶褐色の横帯がある。5~10月に現れる。体長13~14mm。女王バチの体長は15mm。北海道から九州まで分布。
|
参 考 文 献 |
- 「大自然のふしぎ 昆虫の生態図鑑」(学研)
- 「日本の真社会性ハチ 全種・全亜種生態図鑑」(高見澤今朝雄、信濃毎日新聞社)
- 「フィールドガイド 身近な昆虫識別図鑑」(海野和男、誠文堂新光社)
- 「ポケット図鑑 日本の昆虫1400②」(槐真史、文一総合出版)
- 「里山・雑木林の昆虫図鑑」(今井初太郎、メイツ出版)
- 「ずかん 虫の巣」(監修・岡島秀治、技術評論社)
|