樹木シリーズ112 クスノキ
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- トトロが住む大木・クスノキ(楠または樟、クスノキ科)
関東地方以南の照葉樹林を代表する樹種で、樹齢数百年以上の巨木が各地に現存している。日本で一番巨木になる常緑広葉樹。四方に大きく枝を広げこんもりとした樹形を示す。アニメ映画「となりのトトロ」の棲み家となっていたのが巨大樹・クスノキだ。常緑樹だが、葉が入れ替わる春から初夏にかけて紅葉する。かつては樹皮から樟脳(しょうのう)を抽出し、防虫剤として利用していた。社寺に大木が多く、神木として崇められている。
主に関東以西から九州に生育。暖地ではよく成木するが、東北では寒気のため育たず、目にする機会は皆無である。
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- 名前の由来・・・クスノキが防虫剤に使われる樟脳の原料になることから、「薬の木(クスリノキ)」が語源とする説や、「奇し木(クスシキ)」、香りが強いことから「臭い木」が転じたなど諸説があり、本当の由来は判然としない。「楠」または「樟」と書き表す。
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- 花期・・・5~6月、葉のつけ根から円錐花序をだし、黄白色の小さな花を多数つける。毎年、この花が咲く頃、旧葉と新葉の交代が見られる。
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- 高さ・・・普通20m、時に高さ55mにも達し、直径8mにもなる巨木がある。九州にはクスノキの大木が多い。
- 巨木になる理由
- 長寿であること。鹿児島県蒲生の大クスは全国一の巨樹で樹齢千年と言われている。愛媛県大山祇神社の大クスは、樹齢3千年と記されている。
- 神との深い関りがある樹木で、神社の境内やその周囲の神社林に植えられ保護されてきたこと。
- クスノキの樹体がもつ香り(樟脳)が、他の植物の発芽や生長を抑える働きを持っていること。クスノキの樹体から樟脳が発散され、地中に蓄積されて、アレロパシーの働きをするという。
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- 葉・・・卵形または楕円形で葉先は細長く尖る。全縁で縁は波打ち、互生する。主な葉脈は3つに分岐し、その分岐点にダニ部屋がある。
- 照葉樹・・・濃い緑色で、葉の表面にロウ質の膜層がありテカテカ輝いて見える。このような葉をもつ常緑広葉樹を照葉樹と呼ぶ。同じ仲間は、スダジイ、コジイなどのシイ類、アラカシ、シラカシなどのカシ類、タブノキ、ツバキ、イスノキなどがある。
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- 葉に棲むダニ・・・ダニ部屋に棲んでいるのはフシダニ。このダニ部屋は、ダニがクスノキの葉に侵入する前から既にできている。つまり、クスノキがダニに棲み家を提供し、他の害虫を退治してもらっている。害虫や病原菌を防ぐ対策をしっかりしていることが巨木になれる理由の一つ。
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- 葉の寿命は一年と短い・・・常緑樹にしては光合成をガムシャラにするので、速く生長するが、その分葉の寿命は1年と短い。新しい葉が出てくると紅葉して落ちる。
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- 樹皮・・・暗褐色で短冊状に縦に細かく裂ける。(写真:京都府立植物園クスノキ並木)
- 果実・・・球形で、10~11月に黒く熟す。
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- 樟脳・・・葉をもんで嗅ぐと、すっとする香りがする。これは樟脳と呼ぶ精油成分である。かつては、クスノキの枝や根を水蒸気蒸留などして生産し、防虫剤や医薬品、香料、防臭剤など多方面に利用した。心臓薬のカンフルは、もともとクスノキが原料。樟脳には、中枢神経を刺激し、血管を収縮させる作用がある。学名もカンフォラという。
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- 香りが他の植物の生長を抑制・・・樹体がもつ樟脳の香りは、他の植物の発芽や生長を抑える働きをもっている。このアレロパシーの働きがあるから、幼木から他の植物に負けず、大きく育っている理由の一つ。(写真:京都府立植物園クスノキ並木)
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- 木彫仏・・・材質が滑らかで刃物の当たりが良く、逆目もたちづらく、加工が容易で耐久性もあるので、木彫仏に最良の材料であった。飛鳥時代につくられた木彫仏の多くはクスノキ。奈良時代に入るとヒノキが主体に変化した。伎楽面もクスノキやホオノキ、キリから針葉樹のヒノキへと変化した。
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- 丸木舟の用材・・・日本書紀には、「杉及びクスこの両樹は以て浮宝とすべし・・・」とあるように、クスノキはスギと同様に舟を作る用材として重宝されていたことがうかがえる。事実、各地で発掘された遺跡からクスノキの丸木舟が出土していることから、日本書紀の記述が裏付けられている。
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- 楠の木学問・・・クスノキは、数百年という歳月をかけて、ゆっくりと確実に大木に成長するため、進み方は遅くとも最終的には学問を大成させることを「楠の木学問」という。ちなみに京大のシンボルツリーは、時計台前にある「クスノキ」。そのこんもりとした樹形が美しく、何度か撮影していた。しかし、恥ずかしながら、つい最近までその樹木の名前を知らなかった。ある人に指摘され、改めて調べて初めて知った次第である。(写真:京大時計台前のクスノキ)
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- クスノキ崇拝・・・四周に枝を張る長寿のクスノキは、森厳で風格があることから、クスノキ崇拝が各地に見られる。クスノキは、神社の境内やその周囲の神社林に植えられ、神との深いかかわりのある樹木として保護されてきたことが巨樹が多い理由の一つ。クスノキを神木としている神社の巨樹は、ほとんどが天然記念物に指定されている。
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- 鎮守の森とトトロ・・・西日本各地の鎮守の森の多くは、クスノキを主体とした照葉樹が社叢を形成している。アニメ映画「となりのトトロ」が棲む木は、鎮守の森の主・クスノキの巨樹・・・ある日、妹のメイは、繁みのトンネルを潜り大きなクスノキの木の根元の穴に落ちて、不思議な生き物「トトロ」に出会う。
- 宮崎駿監督は、トトロと主人公たちが住んでいる村のイメージの由来について、子供のころに見て育った神田川や、自宅のある所沢、美術監督の男鹿和雄のふるさと秋田など様々な地名を挙げている。
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- 材の利用・・・大木なので大きな材がとれること、精油分を含んでいるので耐久性が高く虫にも強いことから、様々な用途に用いられた。社寺建築の構造材、和風建築の内装材、箱、木魚、仏像、家具など。特に木魚は、まろやかな音が出るので重用された。箱は、虫がつきにくいので文書の保存などに向いている。 (写真:京都府立植物園クスノキ並木)
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- 千年の樟の大樹の金若葉 高橋悦雄
- 楠若葉見上げて神に近づけり 神山白愁
- 木枯や楠くぐりゆく濠の水 横光利一
- 楠の根をしずかに濡らす時雨かな 蕪村
- 神の楠花より高き匂ひかな 其角
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参 考 文 献 |
- 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
- 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
- 「樹木観察ハンドブック 山歩き編」(松倉一夫、JTBパブリッシング)
- 「アセビは羊を中毒死させる」(渡辺一夫、築地書館)
- 「資料 日本植物文化誌」(有岡利幸、八坂書房)
- 「続・読む植物図鑑」(川尻秀樹、全国林業改良普及協会)
- 「講談社ネイチャー図鑑 樹木」(菱山忠三郎、講談社)
- 「里山の花木ハンドブック」(多田多恵子、NHK出版)
- 「樹木と木材の図鑑 日本の有用種101」(創元社)
- 「日本有用樹木誌」(伊東隆夫ほか、海青社)
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